組織開発の仕事と並行して、僕にはもう一つ、魂を注ぎ込んでいるものがあります。
声楽の世界です。マイクを介さず、自分の体そのものを楽器にして表現する声楽の奥深さに、魅了されています。
※約1年前に書いた記事がこちら↓
「うたを生きる」
大学時代、日本有数の男声合唱団で歌っていた経験はありましたが、当時は専門的な指導を受ける機会がありませんでした。
そんな僕が、ソプラノ歌手・柴山晴美先生に師事して2年半が過ぎました。確実にうまくなっている実感はあります。しかし同時に、新たな課題も見えてきました。
うまく、大きく声を出そうとすると、歌っているうちに声が干上がるような感覚になります。五線を越える高音域へのアプローチにも限界を感じます。
そんな悩みを先生に相談したとき、返ってきた言葉は意外なものでした。
「歌いすぎないこと。じゃないかな」
先生は続けました。声楽愛好者として自由にのびやかに歌う選択肢もある、と。
しかし僕は迷わず答えました。「もっとうまくなりたいです」
以下の先生の提案は肚に落ちました。
ここから少し(といっても1、2年?)我慢して、喉に負担をかけず、正しい体の使い方で発声する習慣を身につける。
そうすれば、それまで抑えていた声のポテンシャルが解放され、本来の輝かしい声として開花するのではないか、と。
この話を聞いて、僕はオイゲン・ヘリゲルの『弓と禅』を思い出しました。
ドイツの哲学者だったヘリゲルが、大正時代に東北帝国大学に講師として来日したとき、弓道を学んだ体験記です。
その中で、弓道の師匠が弟子に伝えた印象的な言葉があります。
「的を狙うな。『それ』が射るのを待つのだ」と。
意識的に狙って射ようとするのではなく、正しい姿勢と呼吸を整え、自然に矢が放たれる瞬間を待つという教えです。
前々回のブログで取り上げた「〜しないでおく」能力、つまりネガティブ・ケイパビリティにも通じるものがあります。
すぐに結果を求めたい衝動を抑え、正しいプロセスを信じて待つ力です。これは、僕の組織開発コンサルタントとしての仕事ともつながっていると感じます。
組織の変革においても、性急な解決策を押し付けるのではなく、組織の内在する力が自然に発揮されるような環境を整え、時には「何もしない」勇気を持つことが大切です。
声楽も組織開発も、表面的な技術だけでなく、その奥にある本質的な力を引き出すことが求められます。そのためには、時として「我慢」や「待つ」ことが必要なのでしょう。
さて、僕に「本来の輝かしい声」が開花する日はやってくるのでしょうか!