ファシリテーター業界には、ある誤解があると感じています。
発散的な対話を行うことで、新しいアイデアや視点が生まれる可能性が高まる。
異なる立場やバックグラウンドを持つ人々が集まり、お互いの考えを共有することが大事である。
ここまでは、まったく同意です。
でも、その状況を促進することに傾注するだけのファシリテーターが結構いるのを、僕は見てきました。大きなリスクがありますね。
発散は、議論や話題が進んでいくうちに、一定のテーマや方向性を失い、広がりすぎてしまいがちです。
発散が自由自在に行われたらあとは収束を待つだけ?
ファシリテーションの定石ともされる「発散」と「収束」はそれを鵜呑みにせず、もう少し考察していくことが必要では?
実際にいくつもの対話の現場にかかわってきて、何かが決定的に欠けている感じがしていました。
それが「創造的な混沌」です。
すごいひらめきが生まれるとき、その前の溜めがかならずあることに気づきました。
計画的に作り出すことはできませんが、それが起きやすくし、突き抜けていくメソッドを磨いてきました。
ひとことにすれば、対話から生成される「意味の流れ(文脈)」をファシリテーターが探り、場に投げかけること。
実は、そのあと、Sam Kanerが提唱する「参加のダイヤモンドモデル」を知りました。
図のとおり、あるテーマで考えを発散させた後、「GROAN(うめき声)ゾーン」と呼ばれる混沌をくぐり抜けるとき
新たな「文脈」として、はじめてこれまでなかった創造が生まれるというものです。
僕の考え方とピタリ合致しました。
それを経団連から2015年、世に問いかけた本が『組織の未来をひらく創発ワークショップ』です。
ところが、この考え方を企業現場に受け容れていただくのに苦労しました。
目標を実現するための緻密なプラニングを立て、PDCAを徹底的に回していくという発想とは相容れませんから。
そのやり方では前に進めなくなっているリアリティを感じてはいらっしゃいましたが。
そこに出現したのがコロナ禍です。
従来の常識がまったく通用しない世界。出社することもかなわない中、オンラインだけで仕事ができるのか?など未体験ゾーンの連続。
その状況で突き抜ける個やチームが出てきました。
答えはないという前提で、一人ひとりが知恵を寄せ合って、なんとか最善解を探って試行錯誤していく。
統制型のチームでは決してやれないことが、自走するチームではできたわけです。
実を言えば、企業に創発は無理かなと諦めかけていたときでした。僕が9年前に移住した藤野というまちは、自律分散型の動きに満ちた創発タウンなんです。
それでコミュニティの方に実質的に軸足を移しつつあった中で起きた企業社会における一部の変容は福音となりました。
今がチャンスと捉え、ここ3年ほどは企業の創発支援に傾注しています。