2年ほど前に立ち上がった日本を代表する大手企業の人材開発部長たちが集まって、新しい学びのモデルをつくろうという研究会に、ファシリテーターとして関わっています。
この会の特性のひとつが、企業現場での実践とアカデミックの最先端の理論を掛け合わせるということにあります。
武蔵野大学・経営学部の宍戸拓人先生が、海外のトップジャーナルを軸に毎回面白い論文を抽出してくださいます。
直近の回のが特に面白かった。
米ボストン大学のカレン・ゴールデン=ビドル先生の2020年の論文では「企業変革の鍵は、現場での混乱にある」と示しています。
どういうことか?
一般的には、企業で変革を進めていくためには、現場での不安や混乱を抑え、社員の変革に対する理解、共感を高めるべきである
というのが定石として語られる論調かと思います。
先生はある組織における変革活動を30ヶ月にわたって調査しました。
その結果、変革に向けての大きなきっかけになるのは、変革の方向性に対する現場での混乱(驚き)が起点になって
これまでの前提やものの見方に対する「疑い」が生まれ、その不安定さを解消するための「探求」が促された結果、
新しいものの見方が獲得され、本質的な変革が進むというプロセスが見えてきたと。
これを「アブダクション・シークエンス」と名づけました。
アブダクションとは「モヤモヤした情報群の中から、いっそう明確な概念をつかみ出してくる」(川喜田二郎『発想法』)考え方のことで、とんがり研が有力な武器にしているものでもあります。
僕の場合は、現場から出てくる違和感や、チームにおける葛藤や対立をきっかけにするので似てますね。
さて、話は戻りますが、今回の研究会にて、宍戸先生がこの論文を紹介されたのは、ある参加企業がOKRを導入し、それを評価にもつなげることにしたところ
現場に大きな混乱が生じましたが、そこに人事部が向き合って試行錯誤していった結果、年々いい方向に進んでいるという事例に合わせてでした。
その企業におけるいくつかの混乱や驚きのうち一番印象的だったのが、評価が高い人がかならずしも、満足度が高いわけでなく、むしろ、逆相関が起きたということでした。
なぜだと思いますか?
評価が高い人には、上司がそれでよしと考えて、フィードバックを丁寧にしなかった。逆に、評価の低い人には、納得してもらうために大きな労力を使ったから。
したがって、この会社ではより高い業績に挑戦するための上司のフィードバックのしかたが次なる課題になってます。
組織の主体的な意味ある学びとは、社員が混乱なく理解するよりも、むしろ、現場での混乱からの方が可能性があるという話、面白いと思いませんか?