今回は、とんがり研の自律分散チーム論の最終回です。
ここまでの連載を読まれてない方のために・・・
とんがり研ホームページに過去のコラムを掲載しました。
(その0)一般論を超えて
(その1)「私らしさ」を明らかに究める
(その2)「矛盾や葛藤」を抱きしめる
前回は、矛盾・葛藤を乗り越え方向性を見つけ出すところまで。
そのほのかな灯火をいかに核心にまで育てていくかのお話が今回となります。
ここで、ふたたび不安や疑問にとらわれるかもしれません。
またか(笑)⁉︎
・方向性が見えても、そこからどう具体化すればいいのか?
・その場にいなかったひとには温度感含めて伝えることはできないのでは?
・果たしてその仮説は正しいのだろうか?
どれも、もっともな不安や疑問ですね。
そこで起きがちなのが、せっかくこれまでにない光が見えてきているのに、ロジックで明確に説明できないものは排除してしまうことです。
そうなると、せっかくの苦しい矛盾・葛藤のプロセスを無駄にしてしまうことになります。
「ビジネスの世界で、ロジカルに説明できないものは無意味だ!」
という常識を絶対視してしまうやり方ですね。
そこで、僕が多用しているのが、パースという哲学者が提唱した「アブダクション」(直観的仮説推論)という思考法です。
これは大変面白く、VUCA時代にとても有用な方法論なので、改めてご紹介しますが、今回は要旨にだけ触れますね。
以下は経営学者の野中郁次郎さんの本からの引用です。
「アブダクションとは、一面飛躍的であるがそれは思いつきでなく、現場で見られる多くのデータを比較しつつ
それを説明する規則や論理を相互比較して発見しようとすることである。」
僕が支援にかかわった例をご紹介しますね。
ある大手メーカーの生産技術部門の戦略コアを導き出すミーティングにて
「世界中の生産技術をマッチングアプリ的につなぎ合わせられるのがウチの凄さです」みたいなことをあるメンバーが発言しました。
意外な発言にメンバーたちは当初、キョトンとしていましたが、このメタファーはとても面白いと感じたので、その本質をみんなで掘り下げていくと・・・
多くの大手メーカーにはこれぞという他にはない伝統的な◯◯技術を磨いてきているがウチには実はそういうのがないがゆえに、外部のあらゆる技術を結び合わせ未知の技術を創り出すことができる。
つまり、自社固有の基盤技術や生産方式を持たないことが強みの源泉だという話になっていったのです。
ここまでくるとまさに優れた戦略論に仕立てられる可能が出てきます。これを軸に、関係する要素を因果ロジックで戦略ストーリーにすればいいわけです。
ふたたび、野中先生の本から引用します。
「アブダクションは、現実の個別事象のかすかな機微にも驚きや変化を察知し、関係するありとあらゆる知見を統合して自在な仮説をつくり、試行錯誤的に検証しながら新たな発見に至る」と。
ロジックはもちろんとても重要ですが、アブダクションは、そこに私(たち)の考え、感じ方、思想のようなものが文脈として入り込み、
他者を巻き込む「物語り」になっていく性質を有していると僕はとらえています。
チームで心ときめく仮説を、自分たちで導くことができたら、自律分散の動きは、その「物語り」を介し内から外に広がっていくことになります!
ここまで、とんがり研独自の自律分散チーム論をお届けしてきました。
私らしさを起点に、ひとつの問題へ矛盾・葛藤も抱き抱えながら創造的に取り組み、「ひと仕事」成し遂げるプロセスをつくる
のと同義と言っていいかもしれません。