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“わからなさ”をデザインするための理論三選(その1)〜ネガティブケイパビリティ〜

今回から3回シリーズで”わからなさ”をデザインするための理論的根拠をご紹介します。

僕の提唱するクリエイティブファシリテーションは、「わからない不安に向き合い、新しさへたどりつく」ことがこれからのビジネス伸長や組織変革に不可欠であるとするメソッドです。

これを支える三つの理論的支柱は、創造の旅を導く三つの灯火のような存在だと考えています。

まず最初に、19世紀の詩人ジョン・キーツが見出した「ネガティブケイパビリティ」は、不確実性の海に漕ぎ出す勇気と忍耐を照らしてくれます。

次に科学哲学者チャールズ・パースの「アブダクション」は、混沌の中から創造的な仮説を見出す思考の海図を与えてくれます。

そして最後に、人類学者ティム・インゴルドの「コレスポンデンス」理論は、素材と対話しながら具体的に手を動かし形を見出していく創造のリズムを教えてくれます。

今回は「ネガティブケイパビリティ」について掘り下げていきましょう。

1817年、若き詩人ジョン・キーツはシェイクスピアの天才性について、弟二人に宛てた手紙でネガティブケイパビリティの概念を出しました。

どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力。

この力を持つがゆえに、シェイクスピアは物語の中に性急な到達を求めることなく、不確実さや不思議さ、懐疑ともに傑作を生み出すことができたのだと。

創造性は「わかる」ことよりも「わからないまま探求し続ける」ことから生まれるというのです。既知の領域では過去の解決策の再現にしかなりません。

真の革新は、答えのない問いに向き合い、不確実性を抱えたまま探求し続けるときに、これまでになかった新たな視点や解決策が生まれるということ。

シェイクスピアの作品が400年経っても色褪せないのは、彼が人間の複雑さや矛盾を「わかった」と単純化せず、その深みに留まり続けたからこそでしょう。

この概念は20世紀半ば、精神科医ウィルフレッド・ビオンによって臨床現場に応用されました。

ビオンは、治療者が先入観を捨て、わからない状態に耐えることで初めて患者の真の姿が見えると主張。この姿勢が真の変化を導くとしたのです。

そして今、この考え方が現代ビジネスの最前線でも注目されています。

VUCAと呼ばれる予測不能な時代において、「明確な目標設定」「効率的な意思決定」「短期的な成果追求」といった従来型のビジネスアプローチでは対応できない「厄介な問題」が増加しているからです。

企業が直面する課題は、単に「わからない」だけでなく「何がどう解決されるべきかさえわからない」複雑さを帯びるようになってきました。

実際、創造的な企業やリーダーは、この能力を無意識に活用しています。ちょっと古い例にはなりますが誰もが知っているものとして・・・

Appleのスティーブ・ジョブズは徹底的に市場調査を拒み、人々は見たことのないものを欲しいとは言えないと主張しました。

iPodもiPhoneも、既存の市場ニーズの「わからなさ」に留まり続けたからこそ生まれた革新です。

ソニーの創業者井深大も、「わからなさ」を大事にして未知の領域に挑戦する姿勢を持ち、前例のない製品開発を推進し、他社がやらないことをやるソニーらしさの礎をつくりました。

これらの革新も、「わからなさ」に耐え、そこに留まる勇気から生まれたと言えるでしょう。

キーツの詩的洞察は、現代ビジネスの創造性の核心に生き続けているのです。

次回はパースの「アブダクション」に触れます。わからないところから創造的な仮説を生み出す思考法についてお話しします。

※参考文献『ネガティブ・ケイパビリティ』帚木蓬生著

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