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“わからなさ”をデザインするための理論三選(その2)〜アブダクション〜

今回は”わからなさ”をデザインするための理論ご紹介2回目です。

僕の提唱するクリエイティブファシリテーションは、「わからない不安に向き合い、新しさへたどりつく」ことがこれからのビジネス伸長や組織変革に不可欠であるとするメソッドです。

これを支える三つの理論的支柱は、「知・情・意」的に構成されています。

初回のネガティブケイパビリティは“わからなさ”に対する情緒的・態度的な向き合い方=情でしたが

2回目は認知的・思考的なアプローチ=知の部分になります。混沌の中から創造的な仮説を見出す思考の海図を与えてくれます。

航海中の船員が空に鳥の群れを見つけたとします。

「鳥がいるということは、きっと陸地が近いに違いない」これは単なる当てずっぽうではありません。

19世紀のアメリカの哲学者チャールズ・パースが提唱した「アブダクション」という推論の典型例です。

私たちは日常的に三つの推論を使い分けています。

演繹法は「AならばB」という確実なルールから結論を導く推論。

帰納法は過去の経験を積み重ねて一般的な法則を見つける推論。

そしてアブダクションは、観察された事実に対して「なぜそうなったのか」を探求し、断片的で混沌とした状況から、それらを統合し説明する最も合理的な仮説を発見する推論です。

単なる原因究明を超えて、複雑で曖昧な現実に一筋の光を見出す思考法といえると思います。

帰納法とアブダクションは区別が難しいとよく言われます。しかし、決定的な違いがあります。

医学の例で考えてみましょう。医師が100人の患者のデータから「喫煙者のXX%が肺がんになる」という一般法則を見つけるのが帰納法。

一方、目の前の患者の様々な症状や生活環境の断片から「この咳と胸の痛みはなぜ起きているのか?おそらく肺に炎症があるのでは」と統合的な説明仮説を立てるのがアブダクション。

帰納法は「経験から法則への一般化」、アブダクションは「観察事実から説明への創造的統合」なのです。

アブダクションの最大の特徴は、直観とひらめき、そして論理の飛躍にあります。

パースによれば、新しいアイデアは段階的な論理展開では生まれません。

むしろ混沌とした情報や矛盾する事実の海の中から、突然のひらめきによって「なぜこうなっているのか」の答えが一つの筋道として見えてくるのです。

この「仮説の飛躍」こそが、既存の枠組みを超えた創造性の源泉なのです。

現代のVUCA時代において、データ分析や過去の成功体験だけでは限界があります。

市場の急激な変化、矛盾する顧客の声、予期せぬ技術革新といった複雑で混沌とした状況に直面したとき、

「なぜこんな状況になっているのか?」

「これらの事実をつなぐ隠れたストーリーは何か?」

という問いから始まる創造的な仮説形成が不可欠です。

アブダクションは単なる推測や当てずっぽうではありません。

観察された複雑な現実に「なぜ」の問いを向け、そこに潜む可能性を創造的に発見する、極めて実践的な思考法です。

混沌とした状況の中から一筋の筋道を見出すその洞察力こそが、イノベーションと真の問題解決への扉を開きます。

次回は締めくくりとして、人類学者ティム・インゴルドの「コレスポンデンス」理論をご紹介します。

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