僕の提唱するクリエイティブファシリテーションは、「わからない不安に向き合い、新しさへたどりつく」ことが、これからのビジネス伸長や組織変革に不可欠であるとするメソッドです。
これを支える三つの理論的支柱をご紹介してきましたが、今回はその最終回。人類学者ティム・インゴルドの「コレスポンデンス」理論です。
私たちは何か制作物つくろうとするとき、あるいはあるプロジェクトを遂行するとき、まず設計図を描いて、それから作ると考えがちですが、
インゴルドは真逆のことを言います。「つくりながら考える」ことこそが、創造の本質だというのです。
これが「コレスポンデンス(応答)」です。
作り手と材料が互いに影響し合い、予想もしなかった美しい形が生まれる。インゴルドは、学生との海辺での柳の籠づくり体験を例に、この考え方を説明しています。
籠を編む人は、最初から完成形のイメージを持っているわけではありません。柳の枝の一本一本には、それぞれの固さや曲がり具合、抵抗力があります。
編み手は枝の「声」に耳を傾けながら、時には柳の抵抗に従って形を変え、時には強風の力によって曲げていく。
枝同士が互いに曲げられることで生じる抵抗や摩擦が、実は全体の構造を支えているといいます。
形は外部から材料に押し付けられるのではなく、編み手と柳の間の「力の場」で生成されるこれがコレスポンデンスの本質です。
この視点は、私たちのファシリテーションのあり方を根本から変えます。
参加者を働きかける対象として扱って、あらかじめ定めた結論に誘導するのではなく、参加者の意見や感情という「柳の枝」と対話し、応答し合いながら、その場でしか生まれない創造的な解決策を見出していく。
「わからなさ」は排除すべき欠陥ではなく、新たな可能性への扉なのです。
インゴルドの考え方によれば、一般的な見方では不確実性は「欠如」として捉えられがちですが、実はこれを「可能性」として捉え直すことができます。
クリエイティブファシリテーションは、まだ形成されていない領域で、参加者と一緒に迷いながら、応答し合いながら、新たな道筋を即興的に発見していく営みなのです。
柳の籠づくりにみたように、最初から完璧な見立てや答えを持つのではなく、その場の対話と関係性の中から、予想もしなかった創造的な解決策 を生み出していくのです。