ジェイフィールさんが主催する「日本企業は何を変えるべきなのか〜人的資本経営の根幹に人本主義がありますか?」という魅力的なタイトルの対面のイベントに参加してきました。
もちろん、ご登壇されたのは、伊丹敬之先生です。
1987年に著書で人本主義を掲げて以来、一貫してその主張を続けて来られた経営学の重鎮ですね。
どなたかが言ってましたが、徹底した論理に裏付けれられた理論だが、一方であったかみが滲み出ているという表現はそのとおりだなと思います。
その伊丹先生の最近のお考えを引き出す役割を担ったのが、友人のコンサルタント高橋克徳さん(ジェイフィール社長)でした。
いい意味で、場の空気を読まず正論をズバリおっしゃる伊丹先生のお相手は大変だったはずですが、絶妙の引き出しでした。
2時間程度の長い対談で構成も明確にはなかったので、特に印象に残ったこと3点とそれに対する僕の見解を述べさせていただきますね。
1)まず、日本企業が30年以上の長期低迷を続けている要因は、ズバリ、従業員主権から株主主権への大きなシフトを挙げられました。
この状況は、大企業の労働分配率の低下と株主分配率の増加から明らかだと。
例えば、労働分配率は2001年から2007年までと2010年以降2018年までの時期にいずれも10%以上の下落を記録しているのに対して、
2001年から2021年までの20年間で、大企業の株主分配率は3.7%から21.8%へと、18%もの大幅な上昇を示しました。
つまり、かつて自分の仕事や組織に愛着や誇りを持っていた従業員が、会社の上記に見るような方針転換のもとで、やる気を出すはずがないではないかと喝破されました。
2)こんな状況を打破するためには、とにかく覚悟を持ち、大規模投資すると決めて個々にちんまい仕事をしてないで、膝詰めで話し合いをせざるをえないような環境を意図的につくることが必要だと主張されました。
そのためには、リモートワークなど止めてしまった方がよいと、伊丹先生らしい言い切りも。ここは、もちろん、僕には異論ありですが、それは、のちほど。
3)自分が一貫して提唱してきた人本主義と、最近脚光を浴びている人的資本経営はまったく別物で何の関係もないともおっしゃいました。
株主主権の場合、企業はカネの結合体として機能せざるをえないが、従業員主権の人本主義の本質は、ヒトの結合による情報と感情のダイナミックな相互作用にあり、
そこから付加価値が生み出されるし、Googleなどはその最先端を行っているという見方。
一方、人的資本経営は、そもそもヒトを「資本」と捉える時点で人本主義とは相容れないとにべもありませんでした。
あくまで僕が特に印象的だと思った3点を簡単にご紹介しました。
最後に、僕なりの観点を少し加えさせてください。
1)は、ほんとにそのとおりだと思います。
2)は、大規模投資などの大きな企てをするというのもとても共感します。
ただ、そもそも「大きな企て」をするのが大企業だったはずなのに、僕がかかわってきた大企業の現場でなされている仕事の少なくない部分が、組織の現状を維持するためのBullshit Jobであふれていると感じてきました。
大規模投資をする前に「大きく考える」実験と習慣化が必要ではないでしょうか。
また、リモート環境での支援を多くしてきた経験からすると、リモートでも、情報の相互作用や心理的共振を起こせる要素は間違いなくたくさんあります。
逆に、リアル膝詰めでしかやれないところも明確になってきています。テクノロジーを人本主義経営に活かす余地は大いにあると考えます。
3)は、ヒトを資本と捉える言葉の使い方への違和感はわかる気がしますが(言葉の使い方を大事にする伊丹先生らしい)
人的資本経営を主導されている伊藤邦雄先生はじめ、入山先生、名和先生など経営学者のお話を聞くかぎり、目指す世界に本質的な意味で重なるところがかなり多いと個人的には認識しており
日本企業が復活する最後のチャンスにもっと連携されてもいいのではないかと思います。
まぁ、現実的にそれが難しいとしても、僕自身は両者の重なるところに視点を置き、人間の本性回帰の経営にかかわっていくつもりです。