僕が対話のファシリテーションをしていると、ときどきこんな質問を受けます。
「どうして、ああいう場面から新しい仮説が生まれるんですか?」
実は、長いあいだ僕自身も、それをうまく説明できませんでした。会議が煮詰まり、議論がぐるぐる回っている。
そんなとき僕の頭の中では、無意識にある作業が起きていました。
誰かの発言や断片的な情報を、いったん“カード”のように切り出し、それらを並べ替えたり、結びつけたりしながら、まとまりを見つけていく。
そうしているうちに、それまで誰も言っていなかった意味が、ふっと立ち上がる。
それは議論の延長というより、場の混沌の中から意味が浮かび上がってくるような感覚でした。
振り返ると僕は、顧客先のワークショップで長いあいだ、こうした頭の使い方を無意識にしていたように思います。
ところが2011年、自分がやっていたこのような思考に、方法として出会う出来事がありました。
当時僕が在籍していた組織風土変革支援のスコラ・コンサルトに、ある“居士”がアドバイザーとして来られたのです。
青木孝一先生でした。
そのとき僕は、先生が開発されたインテグラル・カードワーク(ICW)という方法を体験しました。
カードを書き、並べ、直感で結びつけながら、そこから新しいメッセージを見出していく。
体験してみて、僕は少なからず驚きました。
というのも、そこでは僕がこれまで現場で感覚的にやってきた思考の動きが、ひとつの体系として整理されていたからです。
そのとき僕は、もう一つ大事なことも知りました。
カードを並べながら、ばらばらの情報のあいだに「もしかすると、こういう意味なのではないか」という仮説がふっと浮かぶ瞬間があります。
このように、観察された事実からもっともありそうな説明仮説を思いつく思考を「アブダクション」と呼ぶこと。
演繹でも帰納でもない、意味の仮説が立ち上がる思考です。
インテグラル・カードワークは、その思考を起こしやすくするための一つの方法なのだと思います。
実はこの考え方は、僕の新刊である『クリエイティブファシリテーション』の重要な下敷きの一つにもなっています。
スコラもこの方法の価値を高く評価し、青木先生と共同で「インテグラル・カードワーク」の商標登録も行いました。
ただ、その後この方法は組織の中で広く使われるところまではいきませんでした。
その後、僕は2017年末にスコラを離れて独立します。
ありがたいことに、その後も青木先生には顧問としてとんがりチーム研究所の活動を見守っていただいていました。
そして2023年。
この物語は、思いがけない形で動き出すことになります。青木先生から、一本のメールが届いたのです。
(後編につづく)
